百年の老舗
麻芛とは黄麻(コウマ)の若葉のことで、主な生産地は台中南屯である。地元の年配者たちは夏にほてりを取り暑気を払うため麻芛スープを作る。台中南屯の老街(古い街並み)にある百年の伝統を誇る老舗の蒸し菓子店「林金生香」は、田媽媽(ティエンママ)の「麻芛糕餅工作坊」の所在地でもある。
田媽媽のメンバーである陳富美(チェン・フーメイ)さんは林家蒸し菓子の百年の大事業を振り返り、一代目は製麺から小麦粉関連食品の扉を開いたと述べている。二代目の林阿塗(リン・アトゥー)は麺亀(ミグー、亀の形をした小麦粉の菓子)などの蒸し菓子からファミリービジネスの基礎を築いた。陳富美さんは四代目で、麻芛を主力製品にして、台中の代表的な地域食品の確立に成功した。「食品事業は良心のビジネスである。うちの製品の色はすべて原料の麻芛の色で、色素は添加していない。素材を誠実に使用し、伝統の手作り製法にこだわることで、百年の老舗の地位が築かれた」、と富美さんは述懐する。
麻芛を蒸し菓子に取り入れる点で、最も手がかかるのは苦味を取り除く工程である。麻芛は手作業で葉から茎の部分を取り除き、竹箕(たけみ)上でしばらく揉み続け、苦味を水で洗い流してからでないと使用できない。富美さんの研究は多岐にわたっており、太陽餅の麦芽糖の餡の中に細かく砕いた乾燥麻芛の粉末を加えると、麦芽が苦味を消して、甘みが増し、べたつき感や苦味はなくなるという。
麻芛を入れた状元糕(状元帽子をかたどったケーキ)は切ると、質感がきめ細かく、味はしっかりとしており、口に入れると、やさしい甘さの中に苦みを感じられる。また、口当たりがよく、すがすがしい香りがするので、お茶請けに最適である。中国の官僚登録試験の科挙に由来するので、受験シーズンや祝祭日には在庫切れになることが最も多い人気商品となっている。
万和宮を中心とする南屯の老街は台中市で最も古い通りで、ここの土角造り建築と赤いレンガ壁は人をタイムトンネルに迷い込んだような錯覚に陥れ、伝統の濃厚な香りが満ちている。現在、五代目が堂々と継承する百年の老舗は、変わらない味にこだわり、台中の地域特産を結び付けることに成功している。同店では、南屯老街の発展につれ、若い人たちにもこの伝統の味が広まることを願っている。