曲がりくねった険しい山道を登り続けるにつれ、空気は冷たさを増し、標高はどんどん増していく。雲が周囲を包み込むようになると、阿里山で最も美しいお茶の里である瑞峰太和にたどり着く。
このトップクラスのお茶の里では、午前9時から正午までのゴールデンタイムに、茶摘みカゴを背負い、笠をかぶって、最も柔らかい一心二葉(いっしんによう)を摘み取る地元の茶文化を体験できる。また、製茶職人から茶揉みの手ほどきも受けられる。茶揉みでは茶葉が手の中で徐々においしいお茶に変わっていく様子を実感できる。
急須にお湯を注ぐと、湯気が立ちのぼり、心がすぐに落ち着く。昼の日差しが注ぐ緑豊かな瑞峰の竹林の茶席や独特の味わいのある太和の茶室で一服のお茶が差し出される時間は、茶人の豊かさで深みのある人生を味わえる時間でもある。
地元の特産
瑞峰村
茶摘みと茶揉み
花柄の被り物をまとい、笠をかぶり、竹カゴを手にすると、道に通じた茶人に小高い丘の上の茶畑に案内される。金萱茶と烏龍茶の違いは葉の主脈と側脈の角度によるという説明を聞き、実演を交えて、最も柔らかい一心二葉(いっしんによう)を指先で摘み取る方法を教えてもらえる。茶樹の列を行き交ううちに、衣服は朝露に濡れて湿り気を帯びてくる。
茶園の中庭に戻り、摘み取ったばかりの茶葉を竹ザルの上に広げ、時計回りにゆっくりと円を描くように揉むと、茶葉は見事に丸まっていく。茶葉がまとまるにつれ、急須に湯を注いで自分だけのお茶の香りを楽しめるという期待も高まる。
竹林での茶席
瑞峰には密かにお茶を楽しめる絶好の場所となる竹林が幾つもあり、竹林の中には優雅な石のテーブルと椅子が置かれている。お茶の師範に案内されて石段を下ると、季節にあった色合いの上品で質素なテーブルクロスが敷かれたテーブルの上に、精錬された生花、湯のみ茶碗、お茶に合うお茶請けなどが用意され、茶席の主催者の美学や行き届いた心配りに感銘を受ける。
周囲が一気に静まり返えると、心にもゆとりが生まれ、都会の喧騒から解放される。海抜1000メートルの高地でお茶を飲んだり、利き茶をしたりするのに専念できる贅沢は、生活の中で最も豊かな「簡素さ」を体感できる瞬間である。
竹林での饗宴
瑞峰に来たら、高山茶の香りを楽しむだけでなく、竹林に囲まれながら極上の味を堪能してほしい。
「苦茶油鶏」は苦茶籽油(カメリア油)を使って、スライスした生姜を弱火で炒めてから、新鮮な鶏肉に生姜の柔らかな辛味をからませた料理である。また、春に収穫した孟宗タケノコの千切りを天日干しにすると、地元では「山のイカ」と呼ばれる乾燥タケノコになる。これに、黒毛豚の肉を加えて、じっくり煮込むと、香りが引き立つ「山のイカと豚肉の煮込み」が完成する。豪華な肉料理には、甘辛く炒めたタケノコ(轎篙)や、薄い衣で揚げたカボチャと茶葉の天ぷらが添えられ、濃厚な味とサッパリした食感を同時に味わえる。
高山烏龍茶の茶葉をじっくり煮たスープに、鶏肉、山薬(ヤマイモ)、新鮮なキノコをたっぷり入れると、茶葉のスープが肉の臭みを消して、竹林での饗宴に最適な旨味のある透き通った上品なスープに仕上がる。
1314展望台
曲がりくねった険しい山道を車で登ると、霧に包まれた瑞峰の最高地点に到着する。眼前には遮るものが何もない景色が広がり、幾重もの鬱蒼な山並みと茶畑の起伏が見渡す限り続いている。標高1314メートルの展望台の横には、愛情のオブジェであることを様々な言語で表示した白い「1314愛情の塔」がひっそりと立っている。
ここは阿里山で日の出を仰ぐ絶好の場所である。暗いうちに起きて車で登ってくれば、陽光が徐々に闇を溶かし、万物を潤し始めるのを眺められる。最高地点では、瑞峰の茶畑の360度の景観を独り占めしたり、朝のまぶしい光の中で傍らの愛する人と永遠の誓いを交わしたりできる。
竹坑渓歩道
昔は「生毛樹」(毛深い樹)と呼ばれていた瑞峰の山の崖には、まるで山が細かい頭髪で覆われているように、松羅(しょうら)の古木が密集して繁殖している。瑞峰の山岳地域の地層は落差が著しいため、滝の数も多い。こうした地理的要因により、魅力に満ちた「竹坑渓歩道」が形成されている。同遊歩道では、構造の異なる10本の吊り橋を渡り、目の前に突然水しぶきが上がったり、神話の水簾洞や優美な龍宮滝が現れたりするので、水の音を聞きながら、西遊記の孫悟空の世界に迷い込める。
新興寮古厝
山に沿ったカーブを車で曲がっていくと、緑の沿道に「新興寮古厝」という表示が現れた。トンネルの先に突然光が差し込み、人の影が見えたので、この小さな集落を訪れてみた。
人の歩く速さで集落をゆっくり進むと、この高山の森林地域で昔の人たちがどのように生活していたのか不思議に感じる。
太和村
茶摘みと茶揉み
代々受け継がれてきた茶園では、経験豊富なお茶の師範のガイドで茶摘みと茶揉みを体験できる。茶葉を両手で丸め、両手で何度も時計回りに円を描きながら、茶葉を巻き上げる。手に力を入れずに茶葉を揉むと、お茶は均一ですっきりとした風味になり、力を入れ過ぎると、茶葉の細胞が壊れ、茶汁がうっすら滲み出て、手のひらを鼻に近づけるとお茶の匂いが嗅覚を刺激する。
焙煎を進めながら、長テーブルが設置され、品評用の白磁茶碗が順に並べられて、紅茶、烏龍、金萱(キンセン)といった様々なお茶が注がれる。秒単位で時間が正確に計られ、利き茶が始まる。
茶館の茶席
太和では「一家に一茶席」をモットーに、瑞峰の「竹林茶席」とは異なる独自の「茶室」スペースを構築してきた。
茶館の文化を気楽に体験してほしい。中身がくり抜かれたカボチャのような形状の茶館から遠くの山々を眺望できる。茶館は、星、月、ハート、水滴の形をした窓で全体が構成されており、館内の木のテーブル、腰掛け、温かみのある茶器などは、すべて地元の職人の手作りである。使わなくなった豚舎を改造した茶室は、石造りの水槽、木製のほぞ穴構造、祖父の代からの竹製の間仕切りなど当時の面影を残しながら、高さの異なる3つの茶室を備えている。小川のせせらぎに包まれながら、テーブルに飾られた季節の花を愛でて、一服の高山茶を堪能してほしい。
巃仔尾歩道
起伏のある丘陵に沿って歩いて進むと、美しい茶畑が一望できる「巃仔尾歩道」に出る。トレイルの両側には緑が何層にも重なる茶畑が延々と続いている。トレイルは開放感に包まれ、目線を思うままの方向に動かせる。1時間ほど時間を取って山を散策してほしい。この快適で心地よいトレイルを一歩ずつ進めば、段々畑の景色に溶け込み、森林のリズムを実感できる。
花石渓歩道
「花石渓歩道」。様々に変化する景色が楽しめるこの古道は静かで豊かな環境に囲まれている。木陰に覆われたトレイルを進むと、水の音が響き、滝や渓流を幾つも通り抜ける。静寂な竹林では、爽快さに思わず歩みの速度も緩む。平らな場所に出ると、象がしゃがんでいるように見える「大象山」が古い友人の来訪を歓迎するように出迎えてくれる。
南洋料理
お茶の里である太和は、台湾の様々な場所や外国から夫と共に山に移ってきた「山上媳婦」(山のお嫁さん)のおかげで、意外にも若々しさと活気に満ちている。
山の嫁たちからは、お茶の香りが漂う中で、洗練された竹製のカップホルダーの作り方を教えてもらえる。ティータイムには、濃厚なパンプキンチーズやおいしいウーロンベーグルなど、地元産の素材を使った創作デザートを賞味できる。ディナーの時間に涼しい山の上で提供される、想定外の本格的なマレーシア料理やハーブを使った香り高い豚骨茶スープを味わえば、だれでも笑みを浮かべるはずである。